姑の来訪


その日、執務を終えて自室に戻ってきた魔王陛下は、ありえない・・でもって、絶対に聞き間違えのナイその声を聞いて、ものすっっごく!嫌な予感がした。
扉の向うは、自分の魔王部屋・・その中には伴侶である王配殿下こと、ウェラー卿コンラートが静養しているはずだ。何故、静養しているかというと、先日、彼の母親であるツェツィーリエ上王陛下の策略により、なんと!男の身でありながら、妊娠してしまったのが発覚したのだった。

おかげで一時期、あのコンラートが、悪阻とショックで寝込んでしまった程だ。
現在ショックも悪阻も収まり、安定期に入って順調に過ごしているのだが・・・まぁ、それはいい。
妻が健やかに過ごしてくれるのはいい。中から聞こえる、自分の妻(男)の楽しそうな声を聞いて思ったのだが、問題はその相手の声だ。20年間付き合い続けた声・・そう、息子である自分が間違えようのない声。

しかし

「何でお袋が、こっち(異世界)に、いるんだーー!?」


「あら?ゆーちゃん、おかえりなさい、いやだわ、ママって呼んでっていっているのに、本当に落ち着きのない子ね〜」
困った子だコト と、ほ〜と わざとらしくため息をつく母親に、
「アンタのせいだぁぁ!!!」
と、すかさず突っ込みを入れる息子。さらに突っ込み返す母親と・・相変わらず息がバッチリだ!
「もう、ゆーちゃん、ママでしょ?マ・マ!呼ばないと、ゆーちゃんの恥ずかしいエピソードをコンラッドさんに話しちゃうわよ?」
「申し訳ございません。ママ、どうかそれだけはご勘弁を。」
勢いよく扉が開いて始まった渋谷母子のトルコ行進曲的掛け合い漫才に、コンラートは面白そうにくすくす笑っている。一方、それどころではないのが有利だ。

「って、ちがーーう!何でお袋がこの異世界の、しかも魔王部屋にいるんだぁぁ!」
息子の疑問に、アラそんなこと〜?と、いたって朗らかに答えたのは美子だ。

「もちろん、ご懐妊祝いをコンラッドさんに持ってきたのよ〜。」
うふっvと、こともなげに言い切る母親に眩暈がする・・否・・だからお母様・・何しに来たのかではなく、どうやって魔力もない人間のお母様がこちらに渡ってきたかをデスネー、聞きたいワケナンデスヨー。
「もちろん、健ちゃんのお友達の眞ちゃんに、頼んだのよ?」
「しんちゃん??」
はて??そんな名前の友人なんていただろうか??


しんちゃん・・・眞ちゃん??・・し・しし・・眞王ぅおぉぉ???


「ままま・・まさか、眞王をおどしてっ!」
ボカッ!! (魔王陛下の頭をご母堂が叩いた音)
いやね〜、ゆーちゃん、お願いしたのよ。お・ね・が・い!
「はい、おねがいですね、おかーさま。」(←敗者)
「わればいいのよ。うふv」(←勝者)
深々と頭をたれる有利と鷹揚に構える義母に、成程、あのタイミングでプレッシャーをかけるのかと、義母の有利操縦方法を心のメモに書き留める妻だった。

「きっと、眞王陛下もジェニファーのような美しい女性のお願いなら、喜んで叶えて下さったのでしょう。」
さすが、眞魔国一のモテ男(いまだ現役)ナイスフォロー。(←妻が今何をメモったか知らない夫)
嫌だわコンラッドさんたら、お口がお上手ね、とか言いながらも、美子は喜んでいる・・よかった、これ以上不興を買う前になんとしても帰ってもらわないと。(←非道い息子)

「そ・・それで、お祝いって?何もって来てくれたんだ?」
「そうそう、これよ!はい、コンラッドさんにプレゼント。」
そういって、ビニール袋に巻かれたショッピングカートをドスンとおいた。

「ドスン・・って・・一体何を持ち込んだんだ?」
あまりの音に、一瞬引き気味の有利。まさか、あの水流の中をこれを持ち込んだのだろうか?
あいかわらず、お嬢様風の風体からは計り知れない女性(ヒト)だ。改めて、自分の母親の恐ろ・・いや凄さを実感した有利だった。

コンラートが開けると、中に服が入っていた。たが、ただの服ではなかった、一見ただのジーンズに見えたのに、広げてみるとお腹の所がリブニットになっていた。これはもしや?

「ジェニファーこれ・・。」
「マタニティーウェアよ。こっちの世界の女性は、皆さんドレスだって言うじゃない?だったら、ズボン型のマタニティーウェアがなくて、コンラートさんが困るんじゃないかと思って、それに伸縮性のある素材もないんでしょう?締め付けは良くないのよ?特に男性で妊娠した以上、女性よりも気をつけなくちゃ、だめでしょう?」

「ジェニファー・・いえ、お義母さん、有り難う・・・ございます・・。」
声を詰まらしたコンラートに、美子は気付かない振りして、他にも色々持って来たからと、取り出してみるようにすすめる。その様子に、有利は良い意味で、『やられた』と思った。

コンラートが男性で、自分の妻となり、意図せぬ妊娠で母親となることも、自分は頭では理解していたが本当の意味で理解できていたのだろうか?こちらの衣服事情は、有利のほうが知ってはいたはずだ。
トレーニングウェアが伸縮しないなんてと、不満に思ったり、ダウンジャケットが重い等、あまり発達していない事も知ってはいたのに、それと妊娠したコンラートの衣服について結びつかなかった。
なのに、この母親は、自分が漏らしたことから、その辺りをきちんと汲み取り、こうやって異世界まで持ってきてくれたのだ。

「ゆーちゃん、この服はね、実はウマちゃんが取引先に言って作ってもらったのよ。なにせ、コンラッドさんじゃ、普通の女性用ではラインも股下も合わないでしょう?それと、そのタンポポ珈琲も持って行きなさいって、コンラッドさんが珈琲がすきだから、お酒の代わりにどうぞって。ノンカフェインだから安心よ。」
「親父までが?」
「勝馬が・・あの、ジェニファー、勝馬にも有り難うって伝えておいて下さい。」

「はい。」

にっこりと笑った美子の顔は、母親の顔で・・コンラートもあと少ししたら、こんな表情をするようになるのだろうか?
他にも、葉酸だの妊娠時期に必要なサプリメントだの、妊娠線ってきえないのよね〜といって、お腹に塗るマッサージクリームを渡され、なんと靴まで入っていた。そういえば、コンラートは普段は軍服だし、こちらの靴は主にブーツだ。むくれるからブーツはきついから、これにしろというのだ。

思わずポカーンとする息子夫妻を尻目に、先輩ママであり、経産婦である美子の講釈入りお祝い品は
まだまだ出てくる。およそ、ショッピングカートに入りきる量ではないと思うのだが、収納のコツがあるという美子の一言でうやむやに・・、もしかして、自分の母親はドラ○モンの親戚なんじゃ?なんてありえない事まで考えてしまった有利であった。

円座に色々な形に変わるクッション・妊娠帯は可愛らしいプリントつき^^;
でるわでるわ。ーーあ・という間にプレゼントの小山が出来た。
「あはは、もしかして、おふくろ・・まじでド○えもんの知り合いなんじゃ・・・。」
「でも、こっちでは手に入らないものばかりで、俺は嬉しいですよユーリ。」
ひくつく有利と対照的に、初めて見るものと用途に感心するコンラート。

「そうそう、これ。一応パジャマもあるんだけど・・こちらでは貴族はネグリジェだってヴォルちゃんに聞いたんだけど?お腹冷やすから、こっちの方がいいと思うのよ〜」
「え!パジャマですか!?」
コンラッドに合わせて、男性が着てもおかしくないという、妊娠帯つきのレギンスと長めのTシャツと長袖に妻が飛びついた。じつは、兄弟からもネグリジェ着用を勧められていたのだが、抵抗していたコンラートだった。どうも、あれを着た自分は想像が付かないと難色を示していたのだった。

「あら、喜んでくれて嬉しいわ〜。他にも、困ったことはない?先輩ママとして、相談に乗るわよ!」
「本当ですか?では・・」

キラキラと目を輝かして、コンラートと美子が話し込んでいく。こうして聞いてみると、自分がまったく気付かないところで、妻が悩んでいたことが解る。

ごめんなコンラッド。おれ、なんでも気付けるようになるからな!

握りこぶしにぐっと力を入れると、空に向かって誓う有利。しかし、その夜、妻にキッパリ言われたのだ。
それは、ジェニファーに相談するから大丈夫です。それよりユーリは・・


性欲だけ抑えてくれれば、それでいいですと・・・。


しくしくしくしく・・・・・・


役立たずの烙印を押された気がした有利であった。


End


本編『堕ちて来い』は神咲颯凛様のサイト『das Schlafen von Löwen』を捜索なさってください。
ユコンもイケるよとおっしゃる方、必見ですっっ


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