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はぴば陛下2012

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 『一番最初にあなたを祝いたい』とかなんとか言われて、ユーリはもうここ何年も、誕生日の前夜はコンラートの部屋で過ごすようになっていた。
 日付が変わると同時に囁かれたり、朝起き抜けにオメデトウだったりと、バリエーションはいくつかあるけれど、一番乗りは確実な訳だ。
 誕生日当日は公式行事が詰まっていて、その時くらいしか私的な時間が取れないというのが本当の事情でもあるのだが。そんなロマンティックでない理由は口にしない方がいい。
 二人で誕生日デートだとか、ましてや旅行なんて絵空事にしかならないが、魔王本人が自分の誕生日にそれほど思い入れを持っていなかったので、あまり悲壮じみた気分にはならない。
「そもそも魔族って個人の誕生日をそれほど重要視しないじゃん。なんで俺だけ、さ」
 余計な公務が増えてちょっと愚痴っぽくなるだけ。
「あなたの生まれた世界では大切な記念日でしょう?」
「…まぁ、そうやって祝って貰えるのは嬉しいけどさ」
 貴重な政治の場になっているのだから文句は言えないような、だからこそ繰り言のひとつも言いたくなるような。
 去年は密輸組織の存在が発覚して関係がぎくしゃくしていた国の大使を招いて、乗じて和解に持ち込んだ。今年もこの機会に親交を深めておきたい相手が幾人かいる。
 誕生日はすっかり仕事の一環だと嘆いてみせれば。
「俺は純粋にあなたの大切な日を祝っていますよ」
 ユーリに甘い笑顔で宥めて、コンラートは腕を伸ばしてグラスを合わせた。チン、と澄んだ音がして、中で揺れた赤い液体が磨かれたグラスに膜を残す。
 飲み下せば少し癖のある香りが鼻に抜ける。コンラートがユーリの為に用意したものだ。ふわりと香るなめし皮を思わせるそれにユーリは満足そうな笑みを浮かべた。
 舌に残る味を惜しみつつ、顔を上げたらコンラートが楽しげに覗き込んでいた。
 何?、と視線で問う。
「そんなに喜んで頂けて、嬉しいなと」
 うん。ありがとう。
「あなたは何でも持っていらっしゃるから。贈り物に悩むんですよね」
 大変なんですと眉を下げてみせるコンラートにユーリは手を差し伸べた。
 毎年様々な思惑を含んで国内外から沢山の贈り物が献上される。稀少な宝石や高価な美術品、その土地独自の珍しい物。
「ああ。王様だからな。欲しいものは全部手にしている」
 本当に求めるものはそんな紐付きの宝物などではない。
「だけどあんたはいつもおれが一番欲しいものをちゃんとくれるじゃないか」
 もっとも、ユーリが本当に欲しいと思っているものはとっくに手に入れて、掴んで離さないと固く拳を握りこんでいる訳だが。
 そんな手指が白くなりそうな力みはおくびにも出さずにくすぐったく告げて、わざとらしく顰められたコンラートの眉をなぞる。そのまま滑らせて、首の後ろに廻した手で引き寄せた。
 ほら、と確信を込めてユーリは睫毛を伏せた。
 鼻先にかかる笑みを含んだ吐息に、ユーリの口元も緩む。きっとコンラートのキスもこのワインと同じ味。ユーリ自身のだって。
 なんだかんだ言ったって、結局。きらびやかな式典の陰でひっそり恋人と美味しい酒を酌み交わす、そんな誕生日を、ユーリはまずまず気に入っていた。


End


【高級ワインで乾杯◆目を閉じてキスのおねだり】
TOY様のランダムお題のお告げ


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