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Libido

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 なんつーか、お年頃なわけだ。木の股見ても、とまでは言わないけれど。そのぉ。なんだ。定期的に排出したくなる自然現象と申しましょうか。あんま溜めんのも身体に毒だっていうし。
 もっとも、こっちに居る間はマメな恋人のおかげで…そうそう溜めることもないんだけどなー。
 ただ、ここんとこ。数日後の狩猟会に向けての乗馬特訓中なせいで、馬術の師でもある恋人は手を出してこない。確かに野球に使うのとは違う筋肉が軋んで、それはそれで辛いんだけど――だけど青少年のリビドーをナメちゃあいけないよ。

「あ…う」
 枕に埋めても漏れる吐息。
「ここ、ですか」
 背中を探るコンラッドの声に、くったりと手足の強張りを解く。
「う…ん…そこぉ」
 心地良さにまた息を吐く。
「変な風に力が入るから痛くなるんですよ」
 たしなめるような言葉のわりに笑みを含ませてコンラッドは背中を押す。うー。
「んなこと言ったってフツーの高校生は馬なんて乗らないんだよ」
 実は昼間ヴォルフラムに馬にも乗れないへなちょこ呼ばわりされたことを根に持っている。
「自転車になら乗れるけどな――あ、今度自転車ごとスタツアしてさ」
「ヴォルフに特訓させるんですか?」
「そう。そんでおれは両手も離せるぜって自慢すんの」
 そんな軽口を叩いている間にもコンラッドの手はおれの身体を揉みほぐして行く。
 そうやってすっかり軽く血行も良くなって。ついでにあらぬところにまで血が巡ってしまった。
 恋人の手に撫でまわされて無理もないよなー、と慰めつつも。なんというか。そういう意図でない場面で自分だけ、こう、ってなぁ。
 幸い、のっぴきならない事態まででなくて、まだほんのり、な具合なわけだからすぐに静まる。はず。とりあえず布団に突っ込まれておやすみを言われるまでは問題ないはずだ。
 まったく。いくらコンラッドに触れられるのが気持ちいいからって。過剰反応し過ぎだー、おれ。



 天気が良かったのでお茶の時間は外に用意してもらった。部屋に籠っているのは合わないタチなので、たかだか二十分程の事でも生き返る。
 出来ればお茶よりキャッチボールとかの方が尚いいんだけど。執務室に残してきた書類の山を思い出せば、そんな時間までは取れそうになかった。
 メイドさんが給仕してくれて、コンラッドはご一緒しても?と向かいの席に着いた。
 他の貴族が同席する場ならともかく。身内だけならそんな許可など得ないのに。変だなとは思った。ましてや今はコンラッドとおれと。二人だけだ。
 訝しげな視線を受けてコンラッドが微笑んだ。
「一人でより二人の方が楽しいでしょう?」
「じゃなくて。いっつもんなこと聞かないじゃ…」
 的を外したコンラッドの答えに訂正を入れていて気がついた。コンラッドの口元が微かに笑んでる。お日様の下が似合わない種類に。
 慌てて目を逸らす。メイドさんが目の前にカップを置いてくれるところだったので、顔をしかめない様にするのに苦労した。
「だけど一人の方が自分の好きなようにできるからな」
 何でもないように告げて。でも視線はカップに注いだままだ。
 言ったはいいけれどすぐに居たたまれなくなって、紅茶に口をつけながら盗み見たら――コンラッドは目を見張って驚いていた。
 ざまーみろ。だけどかっと耳が熱くなってくるのも判って…ちょっと様にならない。
 だいたい、なんだよ。じゃあ昨夜はわかってほったらかしていったのか。
 含んだお茶がやけに渋く感じた。
 しかもそれをわざわざ口にするなんて。こっちの体調を慮ってくれてなのだと、わかっていても面白くない。
 沸々と反感が湧いてきて、やっぱ文句言ってやろうと顔を上げたら。コンラッドは困ったような表情で所在無げにカップの中身を揺らしていた。
「それじゃあカッコつけて痩せ我慢なんてするんじゃなかったな」
 目を落としたまま、自身を嗤うかのように口角が上がる。
 手を離れたカップが受け皿にぶつかって騒々しい音を立てたのは。そんなコンラッドにズキュンとなったからだなんて。絶対無いからな!
「…手が滑っただけっ」

 …――はやく乗馬マスター、したい。


End


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