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今日から俺は!
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あっちで三カ月も王様生活やってたって。こっちへ帰ってきたならば、ほとんどまったくと言っていいほど時間が経過していなかったりするわけだ。どういう仕組みなのかわからないけれど。
学校帰りに公園の噴水に落ちて、ユーリ的には三ヶ月後、そこから這い上がってきて。だけどこれもまたどういう仕組みか偶然か、上手いこと黒い詰襟姿で帰郷と相成る。
実は行きは正真正銘の高校の標準服で、帰りは専属のお針子さん達の手によるオーダーメードになっているわけだけど。ついでに言えば下着もちょっとマニアックな形状のものに…――うん、まぁ、これは脱がなきゃわかんないしな! 気にするな自分、気にしたら負けだ。
だけどあっちとこっちの噴水の水を含んだ上着はずっしり重くて、これは脱いでもいいだろう。濡れて張り付くのに苦戦しながら袖を抜いてたら。
やっぱり視線が痛い。
そりゃあ目の前で噴水に落ちるる高校生が居たらびっくりするだろうけれど――にしてはその種類がなーんか。
驚きもするだろうし、笑いもするだろうけれど、そんな珍妙なものを見るような…ひょっとして紐パンばれた?!
だけどちゃんとベルトは締まったままだし、ファスナーだって閉じている。
ただ、目に入った上着の裏にはっと気が付いた。
三か月の間にすっかり慣らされてしまっていたけれど。一見、標準服となんら変わりの無い上着。だけどそれが最高級オーダーメードの証に、裏地もシルクなのでしたー。しかも高貴な紫色!
いや、あっちでは高貴な色は黒なんだよ。黒。だけどつい、日本じゃ紫なんだぜ、なんて情報を漏らしてしまったせいで…。
んがーっ。こっちは知らんぞっ。つーか、今まで気が付かなかった…左前の見頃の裏。紫に映える金色で豪華な刺繍が施してあった。
何て読むのかはわからないけれど――漢字、だ。
『愛羅武紺薇阿徒』
向こうでチビッコを遊ばせていたママさんたちが口々に「ヤンキー」とか「懐かしい」とか言ってるのが耳に入る。
はっとして右側も開いてみた。
『鬼魔愚零堕亜凛』
ママさんたちの大爆笑が夕焼けの空にこだました。
――ほらぁ、裏地が目に痛いツヤツヤ紫だったからさぁ。つい、ね。
君が天上天下唯我独尊とかって物議醸しそうだろ?
もっと親しみやすい感じでって思ってさ。
これなら渋谷も喜ぶだろうと――内心満更じゃないでしょ?
だって僕は、これでも二人のことを応援しているんだからね!
ええっ何て書いてあるんだって?!
君、あっちの勉強も大切だけど漢字もやっといた方がいいね。
あ い ら ぶ こ ん ら あ と ・ き ま ぐ れ だ あ り ん
End
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