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釣った魚に

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 ユーリがコンラートの不機嫌に気が付いたのは、翌日のもう昼近くになってからだった。
 ありゃりゃ。昨夜はあれで曲がったつむじ真っ直ぐになったと思ったのに。
「どうも見くびられてると気がついたんです」
 ゆうべはあれで誤魔化されてくれてたじゃないか、との考えは表情に出ていたらしい。
「ええ、あの時はまぁ、流されてやってもいいかと思ったんですけど。朝になってあなたの無邪気な寝顔を見ているとだんだん腹が立ってきまして」
 えっと…朝から怒ってったっけ?
 いつものように起こしてもらって、着替えを手伝わせて。昨夜散々仲良くしたはずだったので、とりわけコンラートの様子に注意なんて払っていなかった。機嫌? 覚えてない。
 その後の朝食の席でだって――ああ、ギュンターが午後の予定の変更を言ってて。そういえばずっと目が合わなかったような、いつもより口数が少なかったような。
 ユーリの確認作業を読んだかのようにコンラートが溜息をついてみせる。
「結局こいつはおれに惚れているんだから、適当に今だけ誤魔化しとけばいい、って思ってますよね? うやむやにして抱かせておけば機嫌直すだろう位に考えてますよね?」
 ええーっ。そんなの全部了承の上でうやむやに誤魔化されることを取ったんじゃないの? ユーリのもてなしを受け入れた時点で許されたものだと思っていた。
 つーか。昨晩あれだけ食い散らかしておいて、朝になってやっぱりってどうなの? ともちらっと考えたけれど、コンラートに関してはすっかり安心しきっていた点は事実なので、反論しにくい。
 決して見くびっていたわけでも軽んじていたわけでもないけれど、そう取られるような節がなかったとも言い切れない。
 はっと思い至ってユーリはコンラートの両腕を掴んだ。
「ごめん。おれ、あんたに甘えすぎてた! あんたなら何も言わなくてもおれのこと、全部すっかりわかってくれてるはずだなんて思い込んでて」
 ひどいことしてた。確かに、女の子相手にならここまで傲慢、いや、ぞんざい――まぁ、コンラートじゃなければもっと気を使っていたはずだ。そう、これは彼ならいちいちご機嫌取りじみたことをしなくてもわかってくれるだろうという甘えに他ならなかった。
 ユーリがそんな発見を説明してみたら、コンラートはなんともいえない複雑な表情で聞いていたけれど。
 やがて諦めみたいな息をひとつついて。ただ黙って、ユーリの頭をぽんぽんと撫でた。


End


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