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Let's time trial !

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 十五分あったらすませられるだろう。
 Let's time trial ! コンセプトは情緒のない――。
 だけどキスくらいはするだろうと、伸び上がって唇を求めたら。薄く笑んで肩を押された。
「下、脱いで下さい」
 さらっと指示して、コンラッドは身を起こす。
 それがあまりにドライだったから、恥ずかしがるのも変な気がして。気前よく脱いではみたものの。
 風通しがよくなるとやっぱりちょっと心もとなくって、横向きに寝る。
 コンラッドはベッド横の引出から小瓶を取り出している。日頃、こういう場面はあまり見ないから、何だかとても落ち着かない。
 そこにソレが仕舞われていることは知っていたけれど。気恥ずかしいのと――他に耽れることがあるせいで。支度をするところなんて見たことがなかった。
 その…前にコンラッドに男にしてもらった時に…――使ったけれど…恥ずかしながら、そんなお膳立ては彼にしてもらったので。

 コルクの蓋を外して手のひらにとる。甘いような匂いが立ち上る。
「十五分コースって、いきなりこれデスカ…」
 クリアな思考には少々刺激が強い。
「なじむまでに時間がかかりますから」
 ちょっと面白がっている口調。いや、絶対面白がっている。彼の口元が不自然に震えている。
 香油をまとった指が触れる。必要以上に体に力が入っている。
 キスでもしてくれればいいのに。
 いつもなら根こそぎ奪うくらいのを仕掛けてくる癖に。
 見つめたまま唇を湿したら、コンラッドの目が緩む。彼のこういう顔はとても色っぽくて。日頃ストイックな人物が見せる甘やかな表情は、なかなか強烈だ。腰にくる。
 と、くすぐっていた指先が潜り込む。コンラッドの表情に感じたことがモロバレ。
 両腕で首を引き寄せて、いささか強引に口づけた。まじまじと観察されているより、こっちの方が数倍マシだ。
 薄い唇を舐める。柔らかく歯を立てる。吸い付く。
 先だけ潜らせた指はゆっくり抜き差しを繰り返す。いつもの深さを目指して。
 唇をふれ合わせたままで、「キス」と囁いたら、わずかに隙間があいた。
 舌先を潜り込ませて歯を舐める。やわらかな下唇の肉を吸いあげるのが好きだ。滑らかな舌の付け根を辿るのも。
 するっ、と指が根元まで収まったのを感じた。落ち着くべき所に落ち着くと、違和感は薄れる。
 安堵のため息が漏れる。
 こんなに緊張をしたのは久しぶりだ。初めのころを思い出す。
 受け止めきれないくらいの愛撫を施されても、固い体は容易には受け入れることができなくて――苦痛を甘受することが愛情なのだと思っていた。
 結構健気だった自分が愛おしい。

 揺らす指が、いつものざわめきを呼び覚ます。
「時間短縮ってより、なんかイロイロ出し惜しまれてる気がする」
 コンラッドは埋め込んだ指しかくれていない。
「こっちに集中しているだけですよ。それに――」
 それも引き抜いて、首に回った俺の左手を外させる。そしておれの人差し指を口に含んだ。
 熱い口内とざらつく舌の感触が生々しい。
 唾液をまとわせた俺の指にコンラッドの指が重なる。
「ほら、これだけで柔らかくなっている」
 導かれて、自分の指が内に潜り込む。
 きつく感じたのは一瞬で、中の熱さと思いもかけない柔らかさに戸惑う。ひたっとまとわりつく熱を持つ粘膜。口内なんかよりももっと柔らかで儚い感じがする。
 表情を窺うコンラッドが匂い立つみたいに笑う。
 彼の指が蠢く。おれの体の内が震える――おれの指をさんざめくように締め付けて。
 漏れそうになった悲鳴を噛み殺した。
 彼のナカを知っているけれど、こんなんじゃなかった。
「俺を愛して下さる場所です」
 かすれた声が耳に注ぎ込まれる。
 確かにここは、既に性器なんだと思い知る。
 意外に嫌悪は湧かなかった。彼と愛を交すために必要なのだったら、それも甘受しよう。
 コンラッドがどんなふうにここで逐情するのか――感に堪えないというように呻きをもらして、歯を食いしばるのを。理性をも投げ捨てて俺を愛してくれるのを知っているから。
 指を抜いてくれるよう促して、背を向けた。
「来て――」
 愛して。あんたと交じり合いたい。

 熱いものが押しあてられる。そういえば、彼の方はもう準備ができていたのかと、今更ながらに思い至るが――無用の心配だったようだ。むしろこちらの方が準備不足な感がある。
 軽く力を込めてタイミングを合わせる。力を抜くのと押し入るのがうまくかみ合うと、苦痛はかなり軽減される。それに相性の良さを見る気がして、ココロも満ちる。
 幸福な気分で侵入してくるその質量を堪能する。彼のために受け入れる苦痛には、甘い陶酔を感じる。
 押し開き、埋め込まれる。唇が戦慄く。
 キスが欲しいけれど、後ろから愛される時はもう少し我慢。――身をよじって、苦しい体勢でかわす口づけは官能的だ。
 そのまましばらく馴染むまで動きを止めて。夜着の襟を引きおろして、項にキスされる。
 背中に落とされる口づけが好きなのに、着衣が邪魔だ。布越しの唇の感触がもどかしい。
 腰を捕まえていた手が滑って、今日初めておれの熱に触れてくる。
 後から手を回されて前をなぶられるのは、自分でするのを思いださせる。羞恥が歓びを増幅する。
 実は後ろから抱かれるのも好き。

 コンラッドが慎重に身を引く。大丈夫。
 押し入る。少々の苦痛はこの先に待つ快楽への期待を高めるだけ。現に洩れる声は――甘いだけ。
…はあぁ…――あぁ…
 コンラッドの動きを追うように腰が揺れる。痺れが脊椎を這い上がる。
 胸に愛撫が欲しい。シーツに擦りつける。快感を得ようと敏感になったそこは夜着越しにでも甘い刺激を拾って腰に伝える。
…はぁ…
 笑う気配。だったら何とかしてくれ。大体、あんたがここで感じるようにしたんだろう。
…うぁ…あ…んっ…
 ここも。探り当てたイイ処を擦られて、息が詰まる。おれの内が喜んでいる。
…――っ…
 先ほど教えられた、絡み付くような締め付けを思い出す。
 今、彼の雄をあんな風に包み込んでいるのだ。
…ぁん…ん…
 自分のモノもそこで絞めあげられているような錯覚を覚えて。
 震える。
…んっ――…
 閉じた瞼の裏で真っ白な光が弾ける。喉がひきつる。身体じゅうに震えが走る。
…やぁ…
 剥き出しになった神経にこれ以上の刺激は耐えきれなくて。無意識に逃げ出そうとしていた体を押さえつけられる。
…っ…
 折りそうなくらいにきつく抱きしめられて。獣の獰猛さで突き込まれた彼のが情を吐き出す。
 コンラッドと愛し合うために変化した身体は、それを飲み干すみたいに震えている。
 荒い息を耳元で聞きながら。満足のため息をついた。
 身体の細胞ひとつひとつまで、コンラッドに満たされたと思う――。

 指一本動かしたくない。身体を満たす彼が溢れそうだから。
 崩れ折れたそのままの体勢で余韻に浸っていたら。かぶさっていたコンラッドが身を引こうとした。
「まだ」
 重みが戻ってくる。
「足りませんでしたか」
 笑われる。チガウ。わっかてるくせに。
「大急ぎですませた甲斐がなくなりますよ」
 んー、いいよ。おれはこのまま寝るから。
 だけど。
「…情緒、なかったか?」
 なんだかとっても感情を揺さぶられた気がするのだけど。
 くすくす笑うコンラッド。
「これはこれで、趣がありましたね」
 後ろからきゅっと抱きしめられる。
 ――うん。あんただから、な。

 項に鼻先が擦り付けられる。睦言を紡ぐコンラッドの声。
 そういえば。アノ時、キスしてもらっていない。――まぁ…いい、か…また…今度…。
 幸福な眠りは、すぐそこまで来ている。


End


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