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Happy Halloween !

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「Trick or Treat」
 月の位置を見てもう日付は変わったろうと推察する。今月最後の日になった。古い記憶にあるイベントは、子供たちがお化けに仮装してお菓子をもらい歩くというものだった。
 整理が済んだ書類の束を渡しての護衛の言葉に、ユーリが顔を上げる。
「Trick or Treat」
 繰り返したら、同じ文句を口の中で呟いて、地球のハロウィーンに思い至ったらしい。
「魔王にねだんなよ」
 魔族の長である人が笑った。
「それとも強迫?――お菓子くれなきゃ悪戯しちゃうぞ、だもんな…強盗、かな」
 金を出せ、さもなくば、だろー…ぶつぶつ検証しながら、ユーリが手元の抽斗を開けた。
 掴み出したのは蝋引紙に包まれたキャラメル。
 まさかハロウィンのための用意ではなく、たまたま入っていたのだろうが。
「残念」
「嫌いだっけ? 他のものが良かった?」
 掌の上の菓子を摘みとり、首をかしげるユーリの上に被さった。
「悪戯ができないでしょう」
 堅物の兄の影響か仕事熱心で真面目なところがあるユーリは、執務室では例え二人っきりでも自分を臣下としか見ていない。
 その臣下に突然職場でそんな台詞を耳元で囁かれて、魔王はびっくりしたようにまじまじとコンラートの顔を見詰めた。
 だがコンラートはこんな時間まで起きているカップルが勤しむそれが、書類仕事だというのがどうも不健全に思えてならないのだ。
 包み紙を剥いで口に入れると、濃厚な甘さが染み入るようだ。だがこんなものよりも、もっと癒してくれる存在を知っているし、それは相手だって――。
「いい加減に夕食後に仕事を持ち越すのを改めなさい。残業時間を当てにしないで昼間のうちに片付ける習慣をつけないと。結局だらだら時間ばかりかけてしまうだけですよ」
 きつい言葉で嗜めるとぐっと眉根が寄って口がとがる。おとがいを掴んだらやめろと振り払おうとしたが、力を込めた。
 引き結ぶ唇をほどいてもらうのは少し手間取ったけれど、くたびれた脳細胞に染みるような甘味を口にして、いつまでも怒っているのも難しいようで。
「お菓子をやったのに悪戯された」
 不服そうに文句を言いながら、放り出してあったペンを拾って。しばらくそれを玩んでいたが、やがて諦めたようにトレーに戻した。
 執務室を引き払い、人気のない城内を連れ立って移動しながら。キャラメルはユーリからコンラートへ返されて、コンラートの部屋に着く前には再びユーリへと戻ってきていた。


End


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