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Trick or Treat
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「Trick or Treat」
唐突に地球の台詞を投げかけられたユーリはきょとんとしていたが、目の前にサービスされた皿を見て納得いったのか破顔した。
護衛の私室の方に届けて貰った食後のデザートは甘いかぼちゃのプディングだった。
厨房はそんな魔王陛下の郷里の行事を意識した訳ではなく、単なる偶然。かぼちゃの菓子とこの時期と先の文句が結びつくのは、こちらではごく少数だ。
「だけどそういうのってやったことないんだけどなー。お化けの仮装とか。コンラッドはあるんだっけ?」
「ええ。まぁ」
前にした地球に居た時の話を思い出したのかユーリはくつくつと笑った。
「見たかったなー。あんたの吸血鬼ー…」
「…そんな本気で笑われると誉められてる気がしませんよ」
ユーリは目尻に滲んだ涙をぬぐって、気を取り直すようにスプーンを取ると朱い満月のような器の表面を掬った。その一口目をコンラートの方へと寄せて。
「あーん。ほら、treat。だから悪戯は勘弁」
trickだろうがtreatだろうがどっちでもかまわないような笑みを見せて。
どっちにしても甘い甘い。
「Trick or Treat」
今度はユーリが。
残念ながらデザートも酒も全て片してしまって――既に寝台の上だ。
「しょうがないですね。trickに甘んじます」
身を起こしたユーリの頬に下から手をやると、心地よさ気に擦り寄って。
「後悔するなよ」
なんて勇ましい言葉で乗り上げてくる。
楽しそうに夜着のボタンに手をかけてるのを見上げながら。
どっちにしても御馳走様。
そっと寝台を抜けようとしたのに起こしてしまったらしく、ユーリが身じろぐ。
「まだもう少し寝ていていいですよ」
寝乱れた髪を撫でて掛布を引き上げてやると、頷いて潜り込む。昨夜の機嫌の良さを引き摺るように喉の奥でくすくす笑って。
たとえ寝惚けているのだとしてもユーリの楽しそうな様子には、こちらまで幸せな心持ちになる。
自然と笑みが浮かんで。こういう一日の始まりはいいものだと身支度の為に浴室に向かえば。
まずは鏡が汚れているのかと思った。それから前髪を持ち上げて確認。
堪らないようにユーリが噴き出すのが聞こえてきた。
treatしなかった代償のtrickは――煤で眉毛が一本に繋げられていた。
End
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