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コンユ with CopyRobot

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「何かとお忙しい陛下の助けになればと開発した次第です」
 胸を張って眞魔国の赤い悪魔、フォンカーベルニコフ卿アニシナはユーリの目の前に人形を置いた。
 身長五十センチほどの象牙色の人型。身体のパーツは球と円筒でできていて、のっぺらぼうの顔が不気味だ。いや、鼻の位置にだけは赤い玉が付いていた。
 アニシナはその赤い鼻を指差して。
「ここを押すと、押した本人そっくりに変身して仕事を肩代わりしてくれるという便利グッズ、その名も魔道複写人形です」
 魔動ということは、まずこの机の上に置かれる前に彼が被験済みだというわけで、ユーリの目が脇に座す宰相へ向く。
 で、どうだったの? 大丈夫? 死なない? 害はない?
「ここはひとつ、正直なところを」
「素晴らしい発明だと、はっきりおっしゃいな」
 それまで物言いたげな様子だったグウェンダルは、魔王と赤い悪魔の注視を受けて俯いた。何かを堪えるようにぐっと眉が寄る。
 そして苦渋の表情で。
「失敗ではない…失敗ではないが。――毒にも薬にもならん代物だ」
 アニシナの眉がひくんと持ち上がった。どうやらあまりお気に召さない答えだったらしい。
 グウェンダルはわざとらしい咳払いで報告書の束に戻った。
「失敗じゃないのかー…」
 うーん、とユーリは人形を抱き上げる。 「失敗どころか! 陛下の仕事を分担してくれる画期的な発明です」
「…今はそんなに忙しい訳でもないけどなぁ――けど代わりに働いてくれるんだったら…」
 ユーリは部屋の隅に控えていたコンラートに視線を流した。
 まぁ今日は城の中に閉じこもっているのが勿体ない天気だ。
 そんなわけで。
 今、執務室の面々の前には二人のユーリがいる。
 ユーリ曰く「鼻が赤くならないタイプ」だったそうで、オリジナルとコピーはまったく見分けがつかなかった。
「えーっ、だってそんなの。仕事するためだけに存在するなんて割に合わないだろ」
「つか、その為の発明品じゃないの?」
「おれだって遊びに行きたいし。じゃあそっちが仕事してろよ。おれが代わりに街に下りてやるから」
「そんなこと言ってるとリセットするぞ」
「なんだよ横暴!」
 捨て台詞でコピーがコンラートを盾にする。
 全く中身も同じらしく、自分はコピー、だとかいうはばかりもないらしい。先程から二人はどちらがサボタージュするかで揉めていた。
 グウェンダルは、係わりにならないのが一番だとばかりに、さっきから顔を上げない。 根源のアニシナは、なにやら熱心に二人の様子を書き留めていた。やはりこれも実験だったらしい。
 そこへ事務官が入って来た。
「陛下、午後からの会談でですが――」
 ユーリが二人いるのに気がついて、言葉を途切れさせる。事務官はおもむろにかけていた眼鏡を外した。ハンカチを取り出して丁寧に清め、再びかけて。確かにユーリが二人なのを確認すると「しばらくお待ちを」と。
 五分もせずに戻って来た時には書類の山を抱えていた。
「陛下がお二人いらっしゃるとは存じ上げず。失礼いたしました」
 同じ様な山を抱えたホクホク顔の官吏が更に三人続く。
「会談とその後の晩餐会で午後は全てつぶれると諦めておりましたから。いえ、助かりました」
 瞬く間に二人のユーリの前に仕事が積み上がる。
「二人分どころじゃないだろ!」
 ユーリの抗議を綺麗に聞き流して事務官はにっこりした。


 自分の部屋に戻ったユーリは、糸が切れたように椅子に倒れ込んだ。
 天井を仰いで眉間を寄せ、ぐしゃぐしゃと髪を掻き乱す様子に、先程までの会談の内容を整理しているのだと察する。晩餐用の上着の皺には目をつぶることにして、茶の支度でも言いつけようかとしていたら。前触れもなくドアが開く。
 魔王の私室をノックもなしに訪れた狼藉者を、ユーリは片目で確認して。笑い出した。
「忘れてた」
「――おれも」
 驚いた顔で入って来たのはユーリ。執務室で書類仕事をしていた方のだ。
「お疲れさん」
「そっちもな」
 通常仕様のユーリは盛装のユーリの隣に腰かけた。
 同じ黒の衣装でも襟やそで口に細かな細工がなされ、華やかさを漂わせるユーリと、質素なくらいに装飾を排したユーリが、同情を込めて労り合う。
 何を着せても素材が良いので素晴らしいのだけれど、こうして並べてみると圧巻だなぁとこっそりコンラートは溜息をついた。
 盛装のユーリにはやはり王らしい気品と風格が漂う気がする。実際、このユーリを前にして圧倒される他国の要人を、数えきれない位見てきた。
 かたや、普段着と言ってももちろん魔王の普段着。デザインがシンプルだというだけだが、その飾り気の無さがユーリの研ぎ澄まされた怜悧な美しさを引き立てていた。
「メシ喰った?」
「まぁ適当に――そっちは喉通ったか」
 うっそり笑って切り返すのにうんざりと。
「それなりに」
 互いの不幸を確認し合って肩を落とす。と、二人してコンラートを手招きした。
「ここ」
 座れと、二人の間を示す。
 もう少し見比べて居たかったが、望まれたようにすると両側からユーリがじゃれかかって来た。
「お疲れでしたね」
 うん、とユニゾンで甘えかかってくる。
 それぞれにコンラートの手をとって、頬を擦り寄せたりくちづけたり。
 左右にユーリ。――大層幸福な状態ではあるが。
「何か困ってる? コンラッド」
「正直、慣れない状況にとまどっています。あなたは――…とても馴染んでますよね…」
「だっておれだし」
 ねぇ、と顔を見合わせる。同一人物だけに連帯感は半端ないらしい。
 それから、まあもっとも、と片一方が。
「どっちのおれを膝に乗せようかぁ、とかいう葛藤はわからなくもないけど」
 フォローかどうかわからない共感をくれた。
 間違ってはいない。いないが、しかし。
 左右のユーリが無言で目を配せ合う。コンラートを挟んでそれぞれの拳が振られる。
「…だからってジャンケンで決めないで」
 チョキを出して勝ったほうがいそいそと乗っかってきた。だったら口を尖らせてじっと手を見ている方が不憫な気が…なんて思っていたら。
 顔を上げた。何か企んで、目がキラキラしている。
「じゃあ、おれ、見てるから」
「何を?」
「あんたらのセックス」
「は?」
 何を言っているのかと、思わずその口を見つめた。
「他人に見せる趣味は無いけど――いい機会かもなぁ」
 動かない唇が言った。と思ったら、今度は膝に乗っている方が口にしたのだった。
「だろー? ビデオに撮ったこともないしさぁ。見たことないんだよね」
 もちろんそんな高度な科学技術はこちらにはない。
「…撮ってみたかったんですか?」
 ひょっとして自分は、ユーリのことを何も判っていなかったのかと、申し訳なくなっていたら。いや、とあっさり否定された。
「あーゆうの残すと別れた後が怖いじゃん」
「別…」


 鼻にかかる声が衣ずれに混じる。
 灯りをいつもより多く残したせいで、ユーリの耳たぶが赤く色づいているのもはっきりわかる。
 くちづけたら熱くなっていて、耳元で零した笑いにユーリの背中が跳ねた。
 はだけた襟元から肌を辿って鎖骨の窪みを強く吸うと、コンラートのシャツを脱がそうとしていた指が滑った。
 かち、とガラス同士が触れる硬質な音がして、見れば肘掛椅子に座ったユーリが酒杯を満たしていた。コンラートと目が合うと、嫣然と笑んで杯の中身を舐める。
 そんなよそ見をしていたら、後ろ髪を掴んで唇を塞がれた。咎めるように喰らいつかれて引っ掻き廻される。
 腰を浮かせて率先的に脱がされかかり、ユーリはわざと遠くに衣服を飛ばしてみせた。どうやらストリップティーズの気分らしい。
 一糸纏わぬ姿になって組み敷いて、儚い胸の飾りを舐めて潰すと、腹に当たる雄がぴくんと震える。
 ユーリはいつも以上に感じやすい身体を、更に見せつけるかのように片膝立てた。それでゆらゆらと腰を揺らす。足をコンラートの下肢に絡み付かせ、爪先で愛撫するかのように引き上げ、撫で下ろした。
 重なりあい、擦れ合う。柔い皮膚でざらリと恥毛を感じてリアルな刺激に期待が高まる。
 足を組みかえる衣ずれが聞こえる。見物を決め込んでいる方のユーリだ。
 楽しそうにとんでもない提案を持ち出した彼だが、やはり冷静ではいられなくなってきているらしい。
 ――しらけられても立つ瀬がないか。そう思うとコンラートはユーリを引き起こした。
 観客に向き合うように座して足の間ユーリを抱き込む。自分自身と真っ正面から対峙することになったユーリはさすがに拒否しようとしたが。
「あなた方が望んだことでしょう?」
 後ろから囁くと大人しくなった。
 それでも居たたまれないらしく、目はきゅっと閉じている。
 膝裏に手をかけ足を開かせれば、されるがままに従った。内股を撫でつけるように手を這わせ、ペニスに指を絡める。
 正面のユーリは挑むようにこちらを睨んでいた。
 後ろから首筋を食んで、もう片方の手で色づいた胸の先を摘まみあげる。
 上下させる手の動きが速くなるに従って、ユーリの吐息も殺しきれないものになっていった。
 息苦しさを覚えてか、ユーリが荒っぽくシャツの襟を弛める。
 手の中のユーリがきつく張り詰める。ひくひくと下腹が痙攣した。
「このままかけておあげなさい」
 囁きを落とす。何を、というのは言わずもがな。
「や、」
 と、か細く拒みながら、それが引き金のようにユーリは迸らせた。
 コンラートはすかさず手で受け止める。さすがにそれくらいの理性はまだ残っていた。
 吐精の衝撃をやり過ごしたユーリが、恨みがましく見上げる。
 片方は、ふう、と椅子に沈み込む。
「服を脱いでこっちにおいで」
 ユーリはすいと視線を外し、しばし躊躇いを見せた。横目でこちらを伺い、ぺろっと唇を舐めて。思い切る様に腰を上げたら豪快に脱ぎ始める。繊細な装飾を施した礼服が無造作に椅子の背に投げられた。
 そうやって羞恥も一緒に捨ててきたらしく。
「タマ舐めとフェラチオを一緒にして貰うのってどうだと思う?」
 情緒を無視した物言いをしながら寝台に乗り上げてきた。
「先にあなたを気持ちよくして差し上げるのに」
 抱き寄せるがやんわりと押し止められ、寄って集って寝台に沈められる。
 仕返しの割にはやさしげな手つきで撫で上げて、一息に咥えこんでくれる。
 コンラートの身体を挟んで反対に蹲るのは、まだ甘だるい身体を引き摺る方。袋越しに口に含まれて飴でも舐めるように転がされた。
 そんな破格の奉仕を受けての感想は、暖かく濡れた粘膜に包まれる快感それよりも、股間に秀麗な顔が二つ並んでいることの衝撃の方が大きいということだった。
 互いの頬を擦り合わせながら二人がかりでの愛撫を受ける、奇妙に被虐的な状況にもぞくぞくする。
 もちろん、身体をまさぐる手も四つある。
 そして結局、男の生理はそこに直結するわけで。感じ取ったユーリの目がそそのかす。
 挿入を思わせるように頭を上下させて、少し苦しそうに眉を寄せる。そこへもう一方が駄目押しのように、収縮した陰嚢の中心を舌先で舐め上げた。
 抑えきれずに突き上げてしまい、喉の奥を刺激されたユーリが口を放して。
「あ…」
 そこまで狙った訳ではないのに、ユーリの顔を吐精で汚してしまって。高貴で美しいものをそんなふうにした背徳感に痺れた。
「エロ臭い」
 そう評したのは陰嚢に吸いついていた方。
 ユーリはその台詞に我に返ったのか、頬を拭うと見せつけるようにその指を舐めてみせた。
 今度はユーリがユーリの頬に散った残滓を舐め取る。
 同じ形の顔が向かい合って、少し傾いて。伸ばした舌が頬に垂れる粘性の滴を掬う。
 それはシュールで猥らで、とても美しい光景だった。どうにもナルシスティックな様に目眩がする。
 なのにあっけらかんと。
「え、だって」
 自分のここは普通に舐めれんだろ、と口元を突いて見せる。
 それはそうだが――そういう問題だろうか。
 だが、それを見ていたもう片方のユーリが、ふーんと不吉な笑みを浮かべてみせた。自己陶酔はなくとも悪ふざけは出来るらしいのだ。
 ユーリが手を差し伸べて、もう一方のユーリの頬をなぞる。誘うような手つきで滑らせて、うなじへと差し入れて引き寄せた。
 同一人物だと言い張るだけあって、察し良く意図に気付いたユーリはコンラートに向ける視線を煽るようなものに変える。
 その笑みの形の唇に、まったく同じ唇が寄せられて。
 重なる前に開かれた隙間から、濡れた舌がちらりと覗いて。塞がれた。
 ひたとコンラートに当てられていた視線が満足げに笑んで、口づけに没頭するかのように瞼が伏せられた。
 鏡を相手に戯れているような、だが髪に差し入れてまさぐる指が、噛みあう唇が鏡像などではないと知らしめている。
 角度を変えて二人のユーリが入れ替わり、水音が立つ。あえやかな吐息。生々しい音がコンラートの耳を犯す。
 もう一方のユーリの伏せられていた睫毛が持ち上がり、その下から覗く黒く濡れた瞳もコンラートを観察する。
 更にわざわざ見せつけるように唇の間に隙をつくって。舌がぬらぬらと擦り合わされた。
「ふっ…」
 と、片側がわずかに顎を引いた。眉をひそめて。
 あごに手がかかって引き戻される。頬に散る朱が濃くなって、髪をまさぐっていた手が寄り添いあった二人の間に潜り込む。
 行われていることを暗示するように忙しなく腕が動かされる。
 動きに合わせて、ん、ん、と鼻に掛かった声が漏れる。
 うずうずと二人の腰が揺れて、絡んでいたキスは今や触れ合せているだけになっていた。
「もう…」
「まだ、もうちょっと待って」
 囁きあう二人を前に、疎外感よりも痺れるような興奮を覚えていた。いつもよりも一歩引いた距離で目にするユーリの痴態に息も忘れそうだった。
「んー…」
「あぁっ」
 強い緊張のあとの弛緩。
 二人のユーリが互いに身を預け合って荒い息を吐く。立ちこめる青臭い匂い。
 熱っぽい目をした二人のユーリと見つめ合った。
 引っ立てられるように熱を煽られていた。ユーリの顔も次を望んでいる。ただ、どちらに手を差し伸べればよいものか――本人はどちらも自分、という認識らしいが。
「じゃあ、今度はおれ」
 逡巡していたら先程は見物を決め込んでいた方が身を乗り出して来た。自分だけが拘っているらしいことを言えば、オリジナルの方だ。
 先程まで自分自身を味わっていた口で啄むようにキスをして、早々にコンラートの前に足を開いて横たわった。曲げた膝の裏に手をかけて掬いあげ、切っ先を当てると期待を示すかのようにユーリの喉が上下する。
 ゆっくりと身体を沈める。ユーリの口から感じ入ったように細く息が漏れて、コンラートを包む襞がさざめいた。
「気持ち良さそう」
 そう耳元で囁くのはもう片方、コピーの方。囁いて、そのまま耳たぶにしゃぶりついた。
「気にせず動いてあげて」
 なんて言うけれど。動きにくいことこの上ない。
 何しろ横から被さる様にぴったり身体を押し付けられているのだから。
 とりあえず、オリジナルがコピーを蹴り飛ばさない様に両足を揃えて反対側に倒させた。下半身を捻る格好になったユーリはきつくなった体位に顔をしかめるけれど、その色っぽい表情にも震えた。
 狭くなった中を擦るように腰を使えば、後ろにくっついたユーリも身体を擦り付ける。滾ったペニスが肌をたわめてはぬるりと滑る。
 耳元に零される息使いに混じる切ない色が堪らなくなって、一人を責め立てながらもう一人と舌を絡めた。すぼめた唇で行為を模すように舌を出し入れさせられる。上と下で同じ動きをして、それが同調するかと思えば少しずつずれて、また重なり合う。姿形は同じでも別個体、二人を相手に行うセックスに頭が煮えそうになる。
足を開かせ更にきつく曲げさせれば包み込む中の形が変わった。
「ああ…んっ」
 悲鳴じみた声が上がったが、苦痛でなく歓喜だという証拠に更に腰が浮き上がる。
 首に絡んだ腕で掻き抱かれながらくちづけを深めた。口蓋の柔らかいところまで擦れば、更に望むように頭を反らせる。快感を伝えるように背中を辿っていた指が下の方まで滑り落ちた。尻を撫でまわすまでは良いけれど。
「ユーリ」
 唇を外して咎めるように名を呼べば。
「ケチ」
 指は除けられたが代わりに肩に噛みつかれた。
 恨みがましく腿に押しつけられる熱の動きが強くなる。
 浮いた汗を舐め取られ、湿った髪を指に絡めとられる。同じリズムで揺れてぴったり触れあう肌が軋む。
 下に敷いたユーリの方は目を閉じて腰を揺らめかせることに没頭していた。無意識か口寂しいらしい自分の唇をいじりながら。
 やっぱり二人いっぺんじゃ手に余る、なんて馬鹿なことを考えて、適応する必要もない事態だと打ち消した。
 肌に擦りつけられる肉の滑りもより良くなって、滑らかにしているのは汗だけではないと知る。息を切らし、耳元に零される声に甘い色が滲む。
 コンラート自身を包む襞の収縮も酷くなる。もっと奥へ奥へと引き摺りこむような動きに煽られて射精感が高まる。
「あっ…あっ…あ」
「いっちゃい…そ…いっちゃうっ」
 二方向から聞こえる喘ぎに引っ掻き廻されるように神経が痺れた。
 ユーリの足を押さえている指が、ぎゅっと肌に食い込む。望むままに一番奥まで突き込んで、そこで二度三度と強請り上げぶちまけた。
 耳鳴りまでしそうな快感に頭の中が真っ白に焼けて――深い満足に息をついた。
 再び感覚が戻ってくると、しゃくりあげるように息を継ぐユーリが目に入る。コンラートを咥えこんだままのそこはまだ痙攣を続けている。
 肩にしなだれかかったユーリはぐったりと身体を預けていた。
 それでも絶頂を迎えたものの物足りないらしく、低く唸り声をあげている。肩甲骨の辺りに攣れたような痛みを覚えるのは、また酷く歯を立てられたのだろう。
「わかりましたから…ちょっと待って」
 まだ力の戻らない身体で、しかし体重をかけて押し倒してくる。繋がったままのユーリが堪らないように弱々しく声を上げる。と思えば。語尾が消えて。
 代わりに寝息がそこから洩れてきた。
 同時に感じていた重みが急速に小さくなっていった。サイズも。しゅるしゅる、と縮んで、片腕で抱きとめていたのは小さな人形に戻った。
「ユー…」
 突然の変化に、しんと胸が冷えるような寂しさが押し寄せる。
 やり残したまま去って行ったユーリに…――いや。やり残したって何だ。
 コンラートは脱力しながら、ずるずるとユーリの中から退いた。不随意の動きでひくんとだけ震えて、ユーリは健やかな寝息を立てたままだ。
 魔動複写人形ということだから、これはユーリの魔力が切れたということだろう。
 ただの人形に返ったのをそっと枕元に座らせて。
「ハメを外し過ぎですよ」
 全く起きる気配の無いユーリの鼻をつまんだ。もちろん自分もだが。
 目を移せばいつもに増してひどい有様になったベッドとその周辺。
 盛大に脱ぎ散らかされた三人分の衣服と染みだらけのシーツが、更なる反省を促していた。


「マスターベーションとセックスの間みたいな感じだしなぁ」
 挑発というには随分熱心だったユーリ同士の行為に、嫌悪は覚えないのかと訊ねてみたら。欠伸交じりにそんな返事が返ってきた。
 あれから一昼夜、こんこんと眠り続けて先程起きたばかりである。うつらうつらしながら夕食を摂って、食べ終わるや否や、またベッドに潜り込んでいる。
 確かにそう言われてしまうと魅惑的な気がしないでもない。実際コンラート自身が楽しめるかどうかというのは別だが。
 もう瞼も持ち上がらないらしいユーリが、オヤスミと不明瞭に呟いた。
 就寝のあいさつをしようと身を屈めたら、早くもすぴーと寝息が聞こえてくる。
『毒にも薬にもならない』
 グウェンダルがあの人形を評して言った言葉だが――二人で二倍働いたって、翌日がまる一日使い物にならなくては。確かに意味がない。
 額に掛かる髪を掻き上げて、まるで子供にでもするように、そっと触れるだけのくちづけをした。


End

おまけの次男が二人だったら…編

「んー、よく寝たー」
 両腕をぐっと突き上げると、固まっていた身体が気持ちよく伸びた。コンラートが窓を開け、流れ込む少し冷たいくらいの空気はユーリの頭をクリアにする。
「それはそうでしょう。丸一日おやすみでしたからね」
 おはようございます、眠り姫――なんて厭味でもなさそうな台詞のキスを受ける。
 うっかり受けちゃうおれもおれだけどな。
 ぐるぐる首をまわして、枕元に座る人形が視界に入った。  ああ。一昼夜も寝たのは、その前にいっぱい働いて、いっぱいシタからだっけ。
 爽やかな朝の光の中で思い返すには、少々…かなり気まずさを伴う記憶にうっと息を詰める。
 まぁ、楽しかったけど。
 自分があんなに愛おしそうな顔をしてコンラートとイタシてるなんてのも。知らなかったし。
 なんとなくコンラートと顔を合わせづらくて、そそくさと浴室に向かう。
 そっか3Pかー。湯を浴びつつユーリは今更ながら、感慨にひたっていた。
 でもって、あれってコンラートが二人って場合…なんてのも考えてみたり。
 認めたくはないが百歳の年齢差をもってしても埋めがたい体力の差というものがある。
 デスクワークが中心のユーリに対して、コンラートは身体を鍛えることが本分のようなものだ。コンラートに手加減を忘れられると、ユーリは死ぬ。
 なのにそんなコンラートが二人だと?
 口淫されながらディープキスしたり。もしくはこっちが咥えてる状態で下からも犯されたり。
 わぁ。ちょっと楽しいかもしれない。背中がぞくぞくっとした。
 だけど。日頃なかなか時間がとれないせいもあって、やるとしたら最低二回はするので。二人で四回か。
 もっとも、たまには三回四回ということだって。更に興に乗ってしまえば度を過ごし。
 それが二倍って。

 もう身体を支える力も残ってなくて、横向きに寝そべったまま。後ろから抱かれていいところを擦られるけれど、掠れた声しかあがらない。
 かわるがわる注ぎ込まれたおかげで滑りがいいのは救いだが、そこはとうにぽってりと熱を持っていた。
 さんざん精を吐き出さされたペニスもいくら扱かれたって半勃ちがいいとこで。
 くたりとしたユーリのに沿わされるコンラートのほうは熱く漲って――まだまだ大丈夫ソウデスネ。
 ひりついているのを知っているらしく、痛みを感じない程度のやさしい手つきで愛撫される。
「ほら、もう少しがんばって」
 なんて囁かれて啄むようなキス。
 二人のコンラートに挟まれるようにして愛されて。もう何度イッたのかも定かでないが、自己ベストを更新中なことは確かだ。
 がんばれと言われても、がんばりようがない。もうカラなことは間違いない。さっき出したのだって、透明の妙にさらさらしたやつだった。
 前から後ろからゆすぶられ。天地も定かではない愉悦の泥の中をたゆたう。
 ぼんやり膜をかぶったような中で、耳がユーリ、と囁くのを拾って。コンラート達が昇り詰める。
 くたくたの身体から無理に絞り出されるように――ころ、と何かが転がり出た。
 コンラートが拾い上げたのは、小さな赤い玉。
「おや。打ち止めが出てしまいましたね」
 
 恐ろしい想像をあわてて振り払った。
 身支度の仕上げに上着を着せかけていたコンラートが何か、と訊ねてくるのに首を振る。
 一人で十分だ。
「例の、アニシナさんに返しといて。やっぱあれじゃエネルギー効率が悪すぎるよね…」
 コンラートがクラヴァットの形を整えながら同意した。
 まったく。この年で打ち止めなんて冗談じゃない。


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